基線解析のFIX率が99%でも安心できない  元データ品質の確認ポイント(MBES向け)

MBES

MBESの後処理でQimeraにSBETを入れて解析していると、コース間が微妙に合わないことがあります。
このとき「基線解析のFIX率が高い=精度OK」と判断してしまうと、あとで沼ります。

結論から言うと、FIX率はアンビギュイティが解けたという情報であって、SBETが測深に使える品質かどうかは別問題です。
今回は、POSPacでSBETを作ったあとに必ず確認するQCと、スパイクや塊が出たときの対処フローを備忘録としてまとめます。


そもそもSBETって何?

SBETは、GNSSとIMUを統合して作る「時系列の航跡・姿勢の最良推定値」です。
MBESでは、このSBETを使って測深点の位置(水平)と姿勢(ロール・ピッチ・ヘディング)を補正します。

ZだけをTIDE運用に切り替えることはあっても、水平と姿勢はSBETを使い続けるケースが多いです。
つまり「TIDEにしたからSBETは関係ない。」ではなく、水平と姿勢の品質が悪いSBETだと、コース間ずれは残ります。


UAVレーザは起きにくいのに、MBESは起きやすい理由

UAVレーザでも同じくPOS(航跡・姿勢)を作りますが、上空は衛星視界が確保されやすく、GNSS条件が安定しやすいです。
一方でMBESは、内陸の河川や渓谷、橋の下、水際の樹木被覆など、衛星環境が急に悪くなる場面が多いです。

沿岸部や開けた水域なら問題が出にくい一方、内陸の奥まった場所でMBESを回すと、GNSS品質のリスクが上がります。


POSPacの処理フロー

1。GNSSの基線解析を行う(FIX率を見る)。
2。IMUと統合して軌跡・姿勢を推定する(後処理の統合計算)。
3。最終的なSBETを出力する。
4。Qimeraにインポートして測深を再計算する。

この「2。統合計算→3。SBET出力」の結果が、測深に使える品質かどうかは、FIX率だけでは判断できません。
そこで重要になるのが、POSPacのQC確認です。


FIX率99%でも良い成果とは限らない

FIX率が高いのに、SBETが怪しくなる典型はこうです。

  • 衛星配置が悪い区間が混じっている。
  • 樹木・橋・谷で衛星遮蔽が続いている。
  • サイクルスリップが多い衛星が混じっている。
  • 収録時間の全てを解析対象にしていて、測深に使っていない時間帯まで含んでいる。

この状態だと、SBETの一部にスパイクや塊が出ます。
そして、その区間を含んだSBETをQimeraで使うと、コース間ずれの原因になります。


まず見るべきQCはこれ。Forward/Reverse Separation

私が最優先で確認するのは、QCレポートのForward/Reverse Separationです。
前方計算と後方計算の差が大きい区間は、統合結果が安定していない可能性が高いです。

SBET … Separation(North / East / Down)

ここで「スパイク」や「塊」が出ていたら要注意です。
良い区間は、3成分(North/East/Down)が全体として小さく、目立つ異常が少ない状態になります。


スパイクや塊が出たときの対処フロー

やることは大きく分けて5つです。

1。使わない時間帯を解析から外す

MBESの。000ファイルは、スイッチONからOFFまでずっと収録されます。
しかし測深として意味があるのは、実際に測線を流している時間帯だけです。

収録全時間=解析時間にしない。
まずこれで無駄な悪化要因を減らします。

2。スパイク・塊の時間帯を特定する

QCレポートとSBET Separationで、異常が出る時刻帯をピックアップします。
悪い区間が見えたら、前後にバッファを付けて区間を切ります。

3。区間を分けて再解析し、SBETを作り直す

悪い区間を避けた時間帯で別SBETを作り、Qimeraにインポートして再計算します。
ただし重要なのは、区間割したSBETを使えば必ずコース間Zが縮まるわけではない、という点です。

区間割で逆にズレが増えることもあります。
その場合は、原因がZだけではなく、水平や姿勢にある可能性も出てきます。

4。マスク角を増減する

視界が悪い環境では、マスク角の調整で改善することがあります。
ただし、マスクを上げすぎると観測数が減り、別の不安定要因になります。

ここは「良くなる設定が存在する場合もあるが、素材が厳しいと差が1~2cm程度で頭打ちになる」ことも普通にあります。

5。使用衛星の見直し、サイクルスリップ多発衛星の除外

サイクルスリップが多発する衛星を外すのは有効なことがあります。
ただし、これも万能ではありません。

外したら効いているかどうかは、SBET Separation(N/E/D)とQCの異常区間の減り方で判断します。
劇的な改善が出ないケースもあります。


劇的な改善図が作れないこともある

今回、サイクルスリップ多発衛星の除外や時間の絞り込みなど、いろいろ試しました。
しかしRAW素材の条件が厳く、生成結果は1~2cm変わるか変わらないか、という範囲に収まりました。

ただ、重要なのはここです。

  • 良い素材なら、調整は効きやすい。
  • 悪い素材だと、調整しても限界がある。
  • それでも、悪い時間帯を特定して避けることに価値がある。
  • FIX率だけで安心しないための最低限のQC習慣が重要。

それでも現場を救った運用。ZだけTIDE、水平と姿勢はSBET

Zに関しては、区間割SBETで数センチの改善はあったものの、完全な解消には至りませんでした。
そこでZはTIDE運用に切り替え、水平と姿勢はSBET運用のまま解析しました。

結果として、コース間ずれは完ぺきではないが、インポート前に比べてかなり改善しました。
TIDEにすればSBETは不要という話ではなく、水平と姿勢のSBET品質が効いているという意味です。


POSPacでSBETを高品質に作るために最低限やること

最後に、現場で使えるチェックリストにします。

解析前

  • 収録全時間を解析対象にしない。測深に使う時間帯を見極める。
  • 視界が厳しい環境(河川、渓谷、橋、樹木被覆)を想定し、リスクとして認識する。

解析後

  • QCレポートのForward/Reverse Separationを見る。
  • DisplayのSBET Separation(North/East/Down)を3成分同時表示で見る。
  • スパイクや塊の時間帯を特定し、測深に使っている時間帯かどうか確認する。

対処

  • 使わない時間帯を解析から外して再計算する。
  • 異常区間は区間割して別SBETを作り、Qimeraで再計算する。
  • マスク角を増減して変化を見る(上げすぎ注意)。
  • 使用衛星を見直し、サイクルスリップが多発する衛星は除外を試す。
  • 効いたかどうかは、SBET SeparationとQCの異常区間の減り方で判断する。

注意点

  • 区間割SBETが必ずコース間Zを縮めるとは限らない。
  • FIX率99%でもSBETの測深品質が担保されるわけではない。

まとめ

FIX率は大事ですが、安心材料の一部でしかありません。
SBETを作ったら、QCレポートとSBET Separationで「スパイクや塊がないか」を必ず確認する。
これだけで、Qimeraでのコース間ずれトラブルを未然に減らせます。

内陸MBESは特にGNSS条件が厳しく、素材の限界で劇的な改善が出ないこともあります。
それでも、悪い時間帯を見極めて避け、使える区間で堅実に処理することが最終成果を守ります。

この記事は現場の声で育てていきます。気づいた点や追加情報があれば、ぜひ教えてください。
お仕事のご相談、ご依頼も歓迎です。

有限会社アペオ技研 加藤
連絡先:kato.apeo@gmail.com

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